相続放棄をするために、何らかの書類への実印による押印、そして、印鑑証明書の提出は必要なのでしょうか?

結論からいえば、相続放棄の手続において印鑑証明書が必要になることはありません相続放棄は家庭裁判所でおこなう手続であり、申立をするに当たって印鑑証明書の添付は不要です。

よって、上記のとおり「相続放棄手続で印鑑証明書は不要」であるのが結論なのですが、ここでご注意いただきたいのは、「他の相続人から、相続放棄のために印鑑証明書を出すよう求められている」といった場合、法律上の相続放棄とは違う意味で使われていることが多いのです。

具体的にいえば、「相続放棄」と、相続人間の合意による「遺産分割協議」とを混同しているケースです。

相続放棄で実印、印鑑証明書は必要なのか
1.相続放棄と遺産分割協議の違い
2.遺産分割協議と債務の相続
3.債務を引き継がないための相続放棄

1.相続放棄と遺産分割協議の違い

相続人が2名以上いる場合、被相続人が遺言書を残していなければ、誰が遺産を相続するかは相続人間の話し合いによって決定します。そして、その結果を書面にしたものを「遺産分割協議書」といいます。

相続人全員が署名押印(実印)し、印鑑証明書を添付した遺産分割協議書によって、不動産の名義変更や銀行預金の払い戻し手続などをおこなうことができます。

このとき、遺産を相続しなかった相続人が、「自分は相続放棄をした」と表現することがあります。

相続放棄のために実印や印鑑証明書を要求されたというときは、ほとんどの場合、このようなパターンです。遺産分割協議のことを相続放棄と言い表しているわけです。

遺産分割協議により他の相続人に相続させる」ということは、自分が遺産相続することを放棄したわけですから、実質的に意味は変わらないようにも思えます。

しかし、最も注意すべきなのは、遺産分割協議により他の相続人に全ての財産を引き継がせるとしても、被相続人に負の財産(借金、相続債務など)があれば、その支払義務を負ってしまう場合があることです。

2.遺産分割協議と債務の相続

相続人全員の合意により、「長男Aが被相続人の財産および負債の全てを承継する」と決定したとします。そして、遺産分割協議書を作成して、相続人の全員が署名押印しました。押印は実印によりおこない、印鑑証明書も添付しています。

ところが、このように相続人の合意により、相続人中の1人が債務を相続すると決めたとしても、被相続人の債権者がそれに従う必要は無いのです。つまり、相続人間で上記のような取り決めをしていても、債権者からの請求を拒否することはできないのです。

それでも、遺産分割協議の際に判明している債務については、債権者の承諾を得た上で、一部の相続人のみが債務を引き継ぐとする遺産分割協議をすることも可能です。父の事業を承継する長男が財産とともに借金も引き継ぐというようなケースです。

けれども、他の相続人が負債を引き継がないで済むのはあくまでも債権者の承諾があるからです。したがって、遺産分割協議をした後に、存在を知らなかった保証債務の存在が発覚した場合などは問題です。

3.債務を引き継がないための相続放棄

被相続人と生前の交流が無かった場合などに、いきなり他の相続人から「相続のための書類」への署名押印および印鑑証明書の提出を求められたというのは珍しい話ではありません。

この場合、相続財産の内容を確認した上で、納得できるときには「遺産分割協議書」へ署名押印し、印鑑証明書を提出してもよいでしょう。見ず知らずの相続人からの依頼で不安だというようなときは、専門家(弁護士、司法書士)に相談した上で、対応を決めるべきです。

また、被相続人に債務があるのが心配だとか、そもそも関わり合いたくないようなときには、相続放棄をするのが確実です。遺産分割協議に応じてしまった後に債務の存在が発覚しても、それから相続放棄をするのは困難であるのが通常です。

ここでいう相続放棄は、家庭裁判所で手続をするものです。相続の開始から3ヶ月間が経過した後であったとしても、相続開始(被相続人の死亡)を知らなかった場合には、知ったときから3ヶ月であれば相続放棄が可能です。

分からないことや少しでも不安があれば、専門家に相談した上で手続を進めることをお勧めします。「相続放棄の相談室」を運営する千葉県松戸市の高島司法書士事務所でもご相談を承っていますから、事前にご予約のうえご相談にお越しください。