【質問】
父の遺産分割についての話し合いをしようと兄に持ちかけたところ、いつの間にか私の相続放棄の申述が家庭裁判所になされ、受理されていることがわかりました。勝手におこなわれた相続放棄の申述を取り消すことはできるのでしょうか。

【回答】
相続放棄の申述は相続人本人により、その真意に基づいておこなわれたのでなければ無効です。

したがって、相続放棄申述書が偽造され、相続人本人が知らない間に、他人によって相続放棄の申述がなされ、それが家庭裁判所で受理されたとしても、その相続放棄は効力を生じません。

このような場合に、相続放棄の無効を主張するには、家庭裁判所で何らかの手続きをする必要はありません。相続放棄が無効であることを、ただちに裁判上(または裁判外)で主張することができます。

相続放棄の申述が誰によっておこなわれたのか不明であるケースで、放棄の申述が何人かが無権限に署名捺印を冒用したもので、真実同人の意思に基かずなされたものと断ぜざるを得ないから、その相続放棄は無効であるとして遺産分割の審判をした事例(浦和家庭裁判所審判昭和38年3月15日)。

なお、相続放棄の無効の主張についての審判手続き上の規定はなく、家庭裁判所に対して相続放棄申述が無効であるとの申述を受理してもらうことはできません。また、放棄の申述書が偽造であることを理由に相続放棄申述受理審判の取消しを申し立てることはできないとされています(東京高決昭和29年5月7日)。

したがって、いったん受理されてしまった相続放棄の申述が無効であることを、家庭裁判所に認めてもらうための手段は存在しないわけですが、それならば、民事訴訟において独立して放棄の無効確認だけを求める訴えを提起できるかについて、判例では否定されています(最判昭和30年9月30日)。

結局、相続に基づく現在の法律関係を主張する訴訟において、その先決問題として相続放棄の無効を主張していくことになります。

相続放棄の申述受理の審判への即時抗告は?

家庭裁判所の審判に不服があるときは、2週間以内に不服の申立てをすることにより、高等裁判所に審理をしてもらうことができます。これを、即時抗告(そくじこうこく)といいます。ただし、即時抗告の申立てができる事件は法律によって決められており、全部の事件について即時抗告の申立てができるわけではありません。

相続放棄の申述の場合、申述人により即時抗告をすることができるのは、相続の放棄の申述を却下する審判です(家事事件手続法201条9項3号)。したがって、相続放棄の申述受理の審判に対しては即時抗告をすることは認められません。