相続放棄の取消しの申述が出来る場合

相続放棄の申述が家庭裁判所によって受理され、相続放棄の効力がいったん生じた場合、後になって取消し(撤回)をすることは原則として許されません。相続放棄申述の撤回が許されるとすれば、他の相続人や利害関係のある第三者の地位が不安定なものとなるからです。

1.相続放棄申述の取消し(撤回)が出来る場合

2.相続放棄取り消しの申述手続き

3.相続放棄の申述が受理される前の撤回

4.相続放棄が錯誤により無効である場合

1.相続放棄申述の取消し(撤回)が出来る場合

次に挙げるような事情がある場合には、相続放棄の取消を家庭裁判所に申述することが認められています。

  • 詐欺または脅迫による場合
  • 未成年者が法定代理人の同意を得ないで相続放棄申述をした場合。
  • 後見監督人がある場合、被後見人もしくは後見人がその同意を得ないで相続放棄申述をした場合。
  • 成年被後見人本人が相続放棄申述をした場合。
  • 被補佐人が補佐人の同意を得ないで相続放棄申述した場合。

相続放棄が詐欺による場合とは、たとえば次のようなときです。

被相続人(父)が死亡し、相続人にあたるのは兄と自分との2人だった。兄から「父には多額の借金があり、プラスの財産などほとんど無い」と聞かされたため、その言葉を信じて相続放棄をした。ところが後になって、借金があったのは事実だけれども、それを上回る財産を持っていたことが判明。

上記のように、第三者の詐欺により相続放棄をしたという場合、相続放棄をした人は家庭裁判所に取消の申述をし、それが受理されることによって、相続放棄の取消しの効力が生じることになります。

民法919条(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)

 相続の承認及び放棄は、第915条第1項の期間内でも、撤回することができない。

2 前項の規定は、第1編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。

3 前項の取消権は、追認をすることができる時から6箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から10年を経過したときも、同様とする。

4 第2項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

2.相続放棄取り消しの申述手続き

相続放棄申述の撤回は原則として許されず、上記のような事情がある場合にのみ取消が認められていますが、取消の申述ができる期間についても限りがあります。

(1) 申述できる人

相続放棄の申述をした人、またはその法定代理人

(2) 申述できる期間

相続放棄の取り消しの申述は、追認できる時から6ヶ月以内に相続放棄取消申述書を家庭裁判所に提出しないと、取消権が時効により消滅します。また、相続放棄申述の時から10年が経過したときも同様です。

なお、追認できる時とは、脅迫により相続放棄申述した場合は脅迫状態が終了したとき、詐欺による場合は本人が詐欺によることを知ったとき、成年被後見人については本人が能力を回復して相続放棄を知ったときです。

(3) 管轄裁判所

相続開始地(被相続人の最後の住所地)の家庭裁判所

3.相続放棄の申述が受理される前の撤回

相続の承認及び放棄は、第915条第1項(熟慮期間)の期間内でも、撤回することができないとされています(民法919条1項)。民法915条第1項本文では「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない」と規定していますから、3ヶ月間の熟慮期間内であれば相続放棄の撤回が認められるようにも思えますが、相続放棄が一度受理された後には熟慮期間内であっても撤回することが許されないことを明らかにしています。

ただし、民法919条1項の規定は、相続放棄の申述が受理される前に申立てを撤回(取下げ)することまでを禁止しているものではありません。家庭裁判所へ申立をすると、申述人に対して文書による照会がおこなわれ、その後に受理されるという流れになるのが通常です。申立をしてから受理されるまでには数週間の期間がかかるのが普通なので、受理される前であれば家庭裁判所に対して申述の撤回(取下げ)をすることが認められるわけです。

4.相続放棄が錯誤により無効である場合

相続放棄が錯誤により無効であるとしても、相続放棄の無効(を理由とする取消し)の申述をすることは出来ません。ただし、相続放棄に法律上無効原因があるとしてその無効を主張する利益がある者は、別途訴訟でそれを主張して争うことは可能です。

相続放棄の無効事由を主張して,家庭裁判所にその相続放棄の取消しの申述の受理を求めることができないと解しても,相続放棄に法律上無効原因があるとしてその無効を主張する利益がある者は,別途訴訟でそれを主張して争う途が用意されているのであるから,同人に,実体法上も,手続法上も,看過すべからざる格別の不利益をもたらすものではない。換言すれば,実定法上の規定がないにもかかわらず,敢えて,解釈上,民法919条1・3項及び家事審判法9条1項甲類25号の2(現在の家事審判手続法39条 別表1の91)を類推適用して,相続放棄の無効の申述を受理すべきであるとしなければならない必要性は見当たらない。

相続放棄が錯誤により無効であると認められた場合について、次のような事例があります。

被控訴人が相続の放棄をした場合には、A(被相続人)の遺産は真実はB(被相続人の祖母)がすべて相続することになるにも拘わらず、被控訴人は、Aの弟や妹にその遺産を承継させる意図の下に、この意思を東京家庭裁判所における審問の中で明確にしたうえ、相続放棄の申述をしているのであるから、被控訴人がした本件相続放棄の意思表示は、民法95条にいう法律行為の要素に錯誤がある場合に該当するものといわざるを得ない(東京高判昭和63年4月25日)。

被相続人の兄弟姉妹に遺産を承継させるために、被相続人の母が相続放棄をしたところ、実際にはその時点で被相続人の祖母が存命だったため、その祖母が遺産を相続することとなってしまったというものです。そして、相続放棄をする際、被相続人の兄弟姉妹に相続させたいという動機を家庭裁判所に対して明らかにしていた場合、相続放棄は要素の錯誤により無効であると判断されました。

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