相続財産の処分と法定単純承認

(最終更新日:2018/06/26)

相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき(保存行為、および短期賃貸を除く)には、相続を単純承認したものとみなされます(民法921条1号)。よって、相続財産についてのどのような行為が「相続財産の処分」に該当するかは、相続放棄の申述が受理されるか否かを判断するに当たり極めて重要となります。

相続放棄をする場合であっても、被相続人(故人)が所有していたものに一切手を付けないというのは現実的に難しいことも多いはずです。よって、相続財産の処分に当たるような行為は避けつつ、遺品の整理を整理をおこなっていくことになるでしょう。

しかしながら、それぞれの行為が法定単純承認の効果を生じさせる「相続財産の処分」に当たるのか、または「保存行為」に該当するのか判断に困ることも多いと思われます。法律の条文には「相続財産の全部または一部を処分したとき」と書かれているだけだからです。そこで、具体的な事例についての裁判例をご紹介しながら、その解説をおこなっていきます。

なお、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときでも、相続人が自己のために相続が開始した事実を知らずにおこなった場合には、法定単純承認の効果は生じません(相続開始の事実を知らずした相続財産の処分)。

・相続財産の処分と保存行為

処分行為とは「財産の現状または性質を変更したり、財産権の法律上の変動を生じさせたりする行為」をいいます。相続財産を売却するなどの法律行為をおこなうことだけでなく、相続財産である家屋を取り壊すような行為も含まれるわけです。

また、問題としているのは「相続財産の処分」であるわけですから、財産的価値の無いものを処分(整理、片付け)したのであれば、それは相続財産の処分には当たりません。たとえば、被相続人が住んでいたアパートを引き払うため、室内に置かれていたものを処分したとしても、そこに財産的価値のあるものが含まれていなければ、相続財産を処分したことにはならないと考えてよいでしょう。

保存行為とは「財産の価値を現状のまま維持する行為」です。保存に当たる場合には、法定単純承認の効果は生じません。たとえば、返済期限の到来した債務の支払いや、腐りやすいものを処分するのは、財産全体からみれば価値を現状維持するための行為であり、処分には該当しないと考えられます。

以下、過去の裁判例などを参考に、どのような行為が相続財産の処分に当たるのかを検討します。

1.相続財産の処分に当たるとされたもの

相続財産を自分のために消費してしまったような典型的な例を除いては、どのような行為が相続財産の管理行為を超えると判断されるのかを一律に判断するのは困難なことも多いです。

そこで、個々のケースごとに「相続財産の処分」に該当するかを検討せざるを得ないこともありますが、相続人に単純承認をする意思がなく、自己の利益を図るためではないのであっても、相続財産の処分に該当するとされているので要注意です。

1-1.相続債権を取り立て、収受領得した行為

相続開始後に、相続放棄の申述をしてそれが受理される前に、相続人が、被相続人の有していた債権を取立てて、これを収受領得する行為(最高裁判所第一小法定昭和37年6月21日判決)。

なお、被相続人が有していた債権についての債務者へ、相続人が請求をおこなうことは、消滅時効の完成を防ぎ「財産の価値を現状のまま維持する行為」といえますから、相続財産の処分にはあたりません。

1-2.株式の議決権行使、賃料振込口座の変更

被相続人が経営していた会社の取締役の選任に際し、被相続人が保有していた株式の議決権を行使した行為、また、被相続人所有のマンションの賃料振込先を自己名義の口座に変更した行為が、相続財産の処分に当たる(東京地方裁判所平成10年4月24日判決)。

2.相続財産の処分に当たらないとされたもの

相続人が相続財産の全部または一部を処分したときであっても、それが「保存行為」に該当する場合には、法定単純承認の効果を生じさせる「処分行為」には該当しません。また、遺産による相殺や期限到来債務の弁済についても、保存行為であり相続財産の処分にはあたらないと判断されることが多いでしょう。その他にも、相続財産の処分にあたらないと判断されたものについて、下記の裁判例が参考になります。

2-1.遺体や見回り品、僅少な所持金の受領。遺産による葬式・火葬費用、治療費の支払い

被相続人が所持していた、ほとんど経済的価値のない財布などの雑品を引取り、被相続人のわずかな所持金の引渡を受け、このお金に自己の所持金を加えて、被相続人の火葬費用ならびに治療費残額の支払に充てたことが、遺族として当然おこなうべきことであるとして、相続財産の処分に該当しないと判断されています(昭和54年3月22日大阪高等裁判所決定)。

2-2.被相続人の財産による墓石、仏壇の購入

相続財産から葬儀費用を支出した行為は、法定単純承認たる相続財産の処分には当たりません。また、仏壇および墓石の購入についても、社会的にみて不相当に高額のものでないため、相続財産の処分に当たるとは断定できないとして、相続放棄申述を受理しています(大阪高等裁判所平成14年7月3日決定)。

2-3.死亡保険金による被相続人の債務弁済

相続人が受領した死亡保険金によって、被相続人の相続債務を一部弁済した行為が、相続財産の処分にあたるのかについての裁判例です。「被保険者が死亡した場合、死亡保険金を法定相続人に支払う」旨の条項がある保険契約に基づいて支払われた死亡保険金が、相続財産であるのか、それとも相続人固有の財産であるのかについて判断を示しています(福岡高等裁判所宮崎支部平成10年12月22日決定)。

3.判断が分かれるもの

3-1.遺産による相続債務の弁済

相続財産による期限の到来した相続債務の弁済は保存行為であり、法定単純承認事由には該当しないと判断されることが多いでしょう。しかし、相続財産に相続人が自らの財産を加えることにより相続債務の弁済をおこなった行為が、法定単純承認事由に該当するとして、相続の限定承認が却下された事例もあります。

処分された積極財産の全ての相続財産中に占める割合が大きく、その結果、相続財産の範囲を不明確にし、かつ、一部の相続債権者の相続債務に対する権利行使を著しく困難にし、ひいては相続債権者間に不平等をもたらすこととなったのが理由のようです。

3-2.遺産分割協議

被相続人の財産についての遺産分割協議をすることは、相続財産の処分として法定単純承認事由に該当するのが原則です。

しかし、多額の相続債務の存在を認識しておれば、当初から相続放棄の手続を採っていたものと考えられ、相続人が相続放棄の手続を採らなかったのは、相続債務の不存在を誤信していたためであり、被相続人と相続人の生活状況、他の共同相続人との協議内容の如何によっては、遺産分割協議が要素の錯誤により無効となり、ひいては法定単純承認の効果も発生しないと見る余地があるとした裁判例があります(大阪高等裁判所平成10年2月9日決定)。

一方、相続人が被相続人が死亡した直後に、被相続人が所有していた不動産の存在を認識した上で他の相続人全員と協議し、これを相続人中の一人に単独取得させる旨を合意し、他の相続人は相続分不存在証明書に署名押印しているのであるから、遅くとも遺産分割協議のときまでには、被相続人に相続すべき遺産があることを具体的に認識していたものであり、相続人が被相続人に相続すべき財産がないと信じたと認められないことは明らかであるとして、遺産分割協議をした事実をもって「自己のために相続の開始があったことを知った」と判断している裁判例もあります(東京高等裁判所平成14年1月16日決定)。

3-3.遺品の形見分け

形見分けとして、遺品中の交換価値がない物、多額遺産中のわずかな物を分けることは単純承認事由に該当しません。ただし、一般に経済的価値を有する物は、財産の処分であるとして法定単純承認事由となります。衣類すべての持ち去りは形見分けを超えるとの裁判例があります。

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