(最終更新日:2018/06/26)
相続人の全員が相続放棄をしたが、被相続人名義の自動車があるという場合、その自動車はどのように処分すればよいのでしょうか。
まず、相続人が相続放棄をした際の自動車の処分について、明確な決まりが存在するわけではありません。自動車の処分に限らず、そもそも法律で規定されているのは「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときは、その相続を単純承認をしたものとみなす」ということのみです。
そこで、被相続人名義の自動車をどうするかとのご質問に対しても、「相続財産の処分に当たるような行為は避けるべき」だとまずは回答することになります。
そうはいっても、被相続人名義のクルマには一切手を付けないでいるというのは現実的でないときも多いでしょう。とくに、駐車場を借りてそこに自動車を停めていたような場合は問題です。
当事務所における相続放棄の相談においても、自動車の処分についてのご質問を受けることが大変多いため、司法書士としての私自身の考えに基づきここで解説をおこないますが、個々のケースでの結果について一切の保証をするものではありません。
相続放棄と自動車の処分
1.財産的価値のない自動車
2.財産的価値がある自動車
3.ローン支払い中の自動車
1.財産的価値のない自動車の場合
被相続人名義の自動車が、初度登録から最低5年以上が経過しており財産的価値が無いというような場合、その自動車を廃車にしても財産の処分には当たらないと考えられます。
また、自動車税を支払っていないので廃車にできないようなとき、被相続人の財産で未納の自動車税を支払ったとしても、「期限の到来した債務の弁済」として保存行為とみなされるならば、相続財産の処分には当たりません。心配であれば、自分自身の出費により自動車税を支払えばさらに安全でしょう。
それでも、自動車を処分したことを「相続財産の処分」とみなされるのが心配なのであれば、いつまでも自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならないことになります(民法940条参照)。
しかし、財産的価値がない自動車をいつまでも保管し続けるのは現実的ではありません。財産的価値のない自動車を保管するために、自分のお金で駐車場を借り続けるのは無駄ですし、仮に被相続人の財産により駐車場代を支払ったとすれば、それこそが相続財産の処分に当たるとも考えられます。
2.財産的価値がある自動車の場合
自動車に財産的価値があるとしても、ただ保管し続けるだけでは劣化して価値が減少していくばかりです。また、駐車場代や自動車税等の負担をどうするかも問題です。そこで、相続人全員が相続放棄をしており、新たな管理者がすぐに現れることを期待できないような場合には、売却して現金にした上で、現金として保管することも考えられます。
そのために、名義変更が必要なのであれば、いったんご自身の名義にすることもやむを得ないでしょう。相続しているわけでは無く、手続き上で必要なことをおこなっているだけだからです。売却した際の書類も全て保管しておけば、後になって債権者から説明を求められたときでも安心です。
なお、相続人全員が相続放棄した場合、相続財産管理人が選任されるまで財産の管理を継続すればよいと考えている方もいらっしゃるようです。しかし、相続財産管理人は「管理すべき財産」がある場合に、債権者などの利害関係人によって選任の申立てがされるものです。よって、自動車のほかにも不動産などの財産がある場合を除いては、相続財産管理人が選任されることは通常ありません。
それでも、相続財産管理人を選任してもらうことで、財産的価値のある自動車の処分等をすべて適正におこなって欲しいと考えたとします。しかし、相続財産の中に預貯金や現金がない場合には、相続財産管理人選任の申立てをするに当たって、家事予納金(数十万円から100万円程度)の納付を求められることになると思われます。
家事予納金は、相続財産管理のための諸経費や家庭裁判所が選任する相続財産管理人の報酬に充当されます。自動車の処分のために、相続財産管理人の選任をするとなれば、それだけの費用がかかるわけです。
3.ローン支払い中の自動車の場合
自動車を購入する際に、販売会社(ディーラー)経由でローン申し込みをしている場合、ローンの支払いが完了するまでは、その自動車の所有権がクレジット会社やディーラーにあるのが通常です(これを所有権留保といいます)。
つまり、被相続人の所有物ではないのですから相続財産には含まれず、処分が問題になることはありません。所有権のあるクレジット会社などに連絡をすれば、自動車は引き上げられることになりますから、とくに何もする必要はないのです。
ただし、ディーラー経由でのオートローンではなく、銀行からの借入れ(マイカーローンなど)である場合には、自動車の所有権は最初から被相続人にあります。したがって、ローン支払い中であっても、相続財産に含まれることになります。
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