被相続人所有の株式議決権行使、賃料振込口座変更

  • 被相続人が経営していた会社の、取締役の選任に際し、被相続人が保有していた株式の議決権を行使した行為。
  • 被相続人所有のマンションの賃料振込先を自己名義の口座に変更した行為

上記2つの行為は、同じ裁判での事例です(東京地方裁判所平成10年4月24日判決)。どちらも、相続人が自分が利益を得ようとしておこなったわけでは無いのですが、単純承認をしたとみなされると判断しています。とくに、賃料振込口座の変更については、次のような事情がありました。

被相続人所有のマンションを、被相続人経営の会社に賃貸し、会社から入居者に転貸していた。賃料は、入居者から会社名義の口座に振り込まれ、会社から被相続人の口座に送金されていた。

被相続人の死後、会社に対して訴えを提起してきた人から、その賃料(転貸料)を差し押さえられないようにするために、入居者からの転貸料の振込先を乙から相続人名義の口座に変更し、それを会社が被相続人に送金していたのと同様に、被相続人の口座に送金した。

つまり、被相続人の財産を減らさないためにおこなった行為だとも考えられますが「相続財産の管理行為にとどまらず、その積極的な運用という性質を有する」とされています。さらにこの判決では、「法定単純承認制度の意義」を次のように判断しています。

相続が開始した場合において、相続人が相続財産を相続するかどうかを決定しないといつまでも法律関係が不安定で混乱がもたらされるので、相続をするかどうかについて相続人の意思表示がなくても、その態度だけ(最終的には何もしない場合の処理を含む。)から必ず相続財産の帰趨が明確になるようにしたのが法定単純承認の制度である。その一つの事由が、民法921条の「相続財産の処分」である。

したがって、相続財産の管理行為と考えられる限度を超える相続財産の取り扱いは、右「相続財産の処分」に該当するものとして単純承認とみなされることとなると解するべきである。この点は、相続人に単純承認する意思がなくても、また自己の利益を図るためではなく、相続債権者に対する弁済のためであるとしても、同様に解するべきである。

どの程度の行為が、相続財産の管理行為と考えられる限度を超えると判断されるのかは明確でありませんが、「相続人に単純承認する意思がなく」、「自己の利益を図るためではなく」とも、相続財産の処分に該当するとされているので要注意です。

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