自己のために相続が開始した事実を知らずにした、相続財産の処分

相続人が相続財産の全部または一部を処分したときには、相続を単純承認したものとみなされます(法定単純承認 民法921条1号本文)。

ただし、相続財産の処分による単純承認の効果が生ずるためには、相続人が自己のために相続が開始した事実を知りながら相続財産を処分したか、または、少なくとも相続人が被相続人の死亡した事実を確実に予想しながらあえてその処分をしたことを要するとされています。

相続財産の処分により、単純承認が擬制される理由

「相続人が単純承認をしたものとみなされるがためには、相続財産の全部または一部の処分という客観的事実が存すれば足り、相続人が自己のために相続が開始したことを知ってその処分をしたことは必要でない」としてなされた上告が棄却された判例です(最高裁判所昭和42年4月27日判決)

民法921条1号本文が、相続財産の処分行為があった事実をもって、当然に相続の単純承認があったものとみなしている主たる理由は、本来、このような行為は相続人が単純承認をしない限りしてはならないところであるから、これにより黙示の単純承認があるものと推認しうるのみならず、第三者から見ても単純承認があったと信ずるのが当然であると認められることにある(大正9年12月17日大審院判決)。

したがって、たとえ相続人が相続財産を処分したとしても、いまだ相続開始の事実を知らなかったときは、相続人に単純承認の意思があったものと認める理由がないから、右の規定により単純承認を擬制することは許されないわけであって、この規定が適用されるためには、相続人が自己のために相続が開始した事実を知りながら相続財産を処分したか、または、少なくとも相続人が被相続人の死亡した事実を確実に予想しながらあえてその処分をしたことを要するものと解しなければならない。

自己のために相続が開始した事実を知らなかったとすれば、そもそも、相続人に単純承認の意思があったものと認める理由がないので、たとえ「相続財産の処分」をしたとしても、単純承認の効果は生じないとされているわけです。

このページの先頭へ