この事例では、被相続人の葬儀費用と、仏壇および墓石購入費用のために、被相続人名義の郵便貯金の解約金および葬儀の際に受領した香典を充て、不足分を相続人が負担しています。まず、葬儀費用の支払いについて次のような判断を示しています。
葬儀は、人生最後の儀式として執り行われるものであり、社会的儀式として必要性が高いものである。そして、その時期を予想することは困難であり、葬儀を執り行うためには、必ず相当額の支出を伴うものである。
これらの点からすれば、被相続人に相続財産があるときは、それをもって被相続人の葬儀費用に充当しても社会的見地から不当なものとはいえない。
また、相続財産があるにもかかわらず、これを使用することが許されず、相続人らに資力がないため被相続人の葬儀を執り行うことができないとすれば、むしろ非常識な結果といわざるを得ないものである。
したがって、相続財産から葬儀費用を支出する行為は、法定単純承認たる「相続財産の処分」(民法921条1号)には当たらないというべきである。
上記のとおり相続財産から葬儀費用を支出する行為は、法定単純承認の事由としての「相続財産の処分」に当たらないと明確に判断しています。
続いて、葬儀の後に仏壇や墓石を購入したことについての判断は次のとおりです。
葬儀の後に仏壇や墓石を購入することは、葬儀費用の支払とはやや趣を異にする面があるが、一家の中心である夫ないし父親が死亡した場合に、その家に仏壇がなければこれを購入して死者をまつり、墓地があっても墓石がない場合にこれを建立して死者を弔うことも我が国の通常の慣例であり、預貯金等の被相続人の財産が残された場合で、相続債務があることが分からない場合に、遺族がこれを利用することも自然な行動である。
そして、相続人らが購入した仏壇及び墓石は、いずれも社会的にみて不相当に高額のものとも断定できない上、相続人らが香典及び本件貯金からこれらの購入費用を支出したが不足したため、一部は自己負担したものである。
これらの事実に、葬儀費用に関して先に述べたところと併せ考えると、相続人らが本件貯金を解約し、その一部を仏壇及び墓石の購入費用の一部に充てた行為が、明白に法定単純承認たる「相続財産の処分」(民法921条1号)に当たるとは断定できないというべきである。
仏壇および墓石の購入については、葬儀費用の支払いほどには絶対的に必要なものでは無いことから、それが社会的にみて妥当なものであるか検討されています。その上で、明白に法定単純承認である「相続財産の処分」に当たるとは断定できないとして申述を受理しています。