被保険者が死亡した場合、その法定相続人に支払う旨の条項がある約款に基づいて支払われた死亡保険金により、被相続人の相続債務を一部弁済した行為が「相続財産の処分」に当たらないと判断された裁判例です(福岡高等裁判所宮崎支部平成10年12月22日決定)
まずは、「被保険者が死亡した場合、死亡保険金を法定相続人に支払う」旨の条項がある保険契約に基づいて支払われた死亡保険金が、相続財産であるのか、それとも相続人固有の財産であるのかについて判断を示しています。
本件保険契約では、被保険者である被相続人死亡の場合の「死亡保険金受取人の指定」がされていないが、保険約款には「死亡保険金を被保険者の法定相続人に支払う」旨の条項がある。
この約款の条項は、被保険者が死亡した場合において、被保険者の相続人に保険金を取得させることを定めたものと解すべきである。
この約款に基づき締結された本件保険契約は「保険金受取人を被保険者の相続人と指定した場合」と同様、特段の事情のない限り、被保険者死亡の時におけるその相続人のための契約であると解するのが相当である(最高裁第2小法廷昭和48年6月29日判決・民集第27巻第6号737頁)。
そして、このような場合の保険金請求権は、保険契約の効力が発生した被相続人死亡と同時に、相続人たるべき者である相続人らの固有財産となり、被保険者である被相続人の相続財産より離脱しているものと解すべきである(最高裁第3小法廷昭和40年2月2日判決・民集第19巻第1号1頁)。
「被保険者が死亡した場合、死亡保険金を法定相続人に支払う旨の条項がある場合」を「保険金受取人を被保険者の相続人と指定した場合」と同様に、特段の事情のない限り、被保険者死亡の時におけるその相続人のための契約であるとしています。
そのうえで、保険契約の効力が発生した被相続人死亡と同時に、相続人たるべき者である相続人らの固有財産となり、被保険者である被相続人の相続財産より離脱していると判断しています。
続いて、本件での「保険契約に基づく死亡保険金の請求及びその保険金の受領」および「自らの固有財産である死亡保険金」が相続財産の処分には当たらないことは明らかであるとの判断を示しています。
相続人らのした熟慮期間中の本件保険契約に基づく死亡保険金の請求及びその保険金の受領は、相続人らの固有財産に属する権利行使をして、その保険金を受領したものに過ぎず、被相続人の相続財産の一部を処分した場合ではないから、これら抗告人らの行為が民法921条1号本文に該当しないことは明らかである。
そのうえ、相続人らのした熟慮期間中の被相続人の相続債務の一部弁済行為は、自らの固有財産である前記の死亡保険金をもってしたものであるから、これが相続財産の一部を処分したことにあたらないことは明らかである。