再転相続の場合の相続放棄の熟慮期間は、その者の相続人(再転相続人)が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算するとされています(民法916条、再転相続についての解説はこちら)。

再転相続の熟慮期間

上の図でいえば、Cが、父Bの相続が開始した事実を知った平成27年3月1日に、祖父Aについての放棄・承認の熟慮期間もスタートします。祖父Aは平成27年1月1日に死亡していますから、再転相続により熟慮期間が2か月か伸びたことになるわけです。

それでは、次の場合の熟慮期間はどうなるでしょうか?

  1. Cは、祖父Aが死亡した事実を知らなかった。
  2. 父Bは、祖父Aが死亡した事実を知らぬまま死亡した。

1の場合、父Bの相続を放棄したのであれば、祖父Aを相続することもありませんから問題は生じません。しかし、Bの相続放棄をすることなく3か月が経過してしまえば、同時にAの熟慮期間も過ぎてしまうことになります。つまり、Aが死亡した事実を知らぬうちに熟慮期間が経過してしまうわけです。

2の場合、父Bが存命であれば、祖父Aが死亡したときから3か月が経過していたとしても、死亡の事実を知った時から3か月以内であれば相続放棄をすることが可能です。ところが、再転相続のときには1の場合と同様に、父Bの死亡から3ヶ月間が経過することにより、熟慮期間が経過してしまうことになります。

上記いずれのケースであっても再転相続人にとって酷な結果となりかねません。けれども、再転相続の場合の相続放棄・承認の性質についての通説である承継説によれば、上記の結論となります。

BがAの相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、Cは、Aの相続の開始があったことを知らなくても、自己のために相続の開始があったことを知ったときからAの相続の承認又は放棄についての法定期間が起算され、また、BがAの相続が開始したことを知らないで死亡した場合も、起算点は同じと解する(『相続における承認・放棄の実務』35頁、新日本法規)。

相続開始を知らずに死亡した場合

上記の承継説によれば、当然に却下されると思われた相続放棄の申述が受理された事例です。当事務所で実際に取り扱ったものですが、却下される可能性も高いことをご説明したうえで、それでも手続きをしてみたいとのご依頼者の意向により申立をしました。同様の事例であっても、再び受理されるかは分かりませんが、一例としてご紹介します。

再転相続の熟慮期間(相続開始を知らずに死亡した場合)

上図では、Aは昭和40年代、父Bは平成10年代に死亡しています。それが、最近になって、Cに対し、A名義不動産の固定資産税の支払いについての通知が届いたのです。

Aは父Bの養父ですが、CはAの存在すら知りませんでした。そのため、BからAの話を聞かされたこともないので推測でしかありませんが、AとBは養子縁組をしたものの、その後に離ればなれとなって長い年月が経過し、BとしてはAの生死を考える機会すら無かったのだと思われます。

したがって、Bは、Aが死亡した事実を知らぬまま死亡したことになりますが、上記の承継説によれば、CがAの相続を放棄できるのは、Bの死亡から3か月以内です(なお、CがAの死亡を知ったのは死亡日の当日であり、熟慮期間の起算点が後に繰り延べられるような事情は存在しません)。

しかし、申述の事情として次のような主張をしたうえで、固定資産税についての通知を受け取ったときが「自己のために相続の開始があったことを知った時」であるとした相続放棄の申述が受理されたのです。

父は、被相続人の死亡の事実を知らなかったのだから、「自己のために相続の開始があった」ことを知らぬままに死亡している。また、父の死亡時に、父が被相続人の相続人となっているのを、申述人が知ることも困難だった。申述人が、存在すら知らなかった、父の養父の相続人となることを望むはずも無く、その時点で事実を知っていれば、当然相続放棄していたはずである。

通説である承継説を支持するならば、父Bの死亡から長年が経ってからの、Aの相続放棄が受理されることは無いはずです。しかし、Aについての債務が発覚したことを、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じていたことについての特別な事情などがあるとして、債務の存在を認識したときから熟慮期間が開始したと判断されたのでしょうか(特別な事情がある場合の熟慮期間の始期についてはこちら)。

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