空家の適正管理について(お願い)」との表題の通知書が、某市の市長名義で送られてきました。

一度も行ったことすらない市からの通知でしたが、「空家等対策の推進に関する特別措置法」などの法令に基づいて送付されてきたものだとのことです。

内容を確認してみると、「貴殿が権利を有すると思われる下記の空家等については、管理不良な状態や不適切な管理状態が見受けられますので、適切に管理されるよう、お願いします」などと書かれています。

全く身に覚えがないし、一体何のことか分からないとのことでしたが、通知書のなかの備考欄に「登記名義人」としてご家族の名前が記載されていました。

この通知書の記載内容が正しいのだとすると、亡くなられたご家族の相続人として「空家等の適正管理について」の通知を受けているということになります。そこで、まずは登記名義人として書かれているご家族についての相続放棄を検討しました。

何らかの事情により、ご家族との交流が長年にわたり全く途絶えているという方も多くいらっしゃいます。そのような場合であっても、親子や兄弟姉妹である限り相続人としての権利義務に変わりはありません

そこで、上記のような通知が突然届くことにより、ご家族が亡くなられている事実、そして、そのことによりご自身が相続人となっている事実を知ることがあります。

そのような場合、ご自身が相続人となっているのを知ったときから3ヶ月以内であれば相続放棄が可能ですから、すぐに専門家に相談して手続きをするようにしてください(当事務所へのご依頼については、松戸の高島司法書士事務所のご相談予約・お問い合わせのページをご覧ください)。

以下、この記事では少し特殊な事例について解説します(実際に取り扱ったケースに基づいていますが、事実関係を少し変えています)。ご自分の場合に相続放棄できるか分からない場合など、まずはご相談にお越しください。

数次相続の場合の相続放棄(目次)
1.相続放棄をすれば空家等の管理責任を負わなくなるのか
2.登記名義人の相続人が誰であるかの確認
3.誰の相続を放棄すべきか(数次相続の場合)

1.相続放棄をすれば空家等の管理責任を負わないのか

空家等対策の推進に関する特別措置法では、特定空家等の「所有者等」に対して、周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置を取らせるものとしています。

この所有者等とは「所有者又は管理者」を指すので、相続放棄をした場合であっても、「管理者」として指導などの対象とされることもあるようです。

よって、相続放棄をすれば絶対に管理責任を負わずに済むというものではありませんが、相続を単純承認することにより全ての権利義務を承継しようとするのでなければ、まずは相続放棄しておくことを検討すべきでしょう。

2.登記名義人の相続人が誰であるかの確認

今回のケースで、上記通知(空家等の適正管理について)に登記名義人として書かれているのは、ご相談者の兄弟姉妹(今回のケースでは兄)に当たる方でした。

そこで、第3順位の相続人として兄の相続人になっているのだろうと判断しました。そして、兄の相続放棄の申立てに必要な戸籍等を取得していくうち、兄が亡くなった時点で相続人となっていたのは、直系尊属である母であったことが分かりました。

つまり、登記名義人である兄が亡くなった時点では母が存命だったため、直系尊属である母が相続人となっていたわけです。

それなのになぜ、ご相談者に対して通知が送られてきたのかといえば、相続人であった母がその後に亡くなったことで、母が有していた相続人としての権利義務を、子であるご相談者が相続することとなっていたのです。

数次相続の場合の相続放棄

上図の相続関係では、平成15年に兄が亡くなった時点での相続人は母1人でした(父は既に死亡。兄は独身で子はいない)。

その後、平成20年に母が死亡したことにより、母が承継していた兄についての権利義務の全てを、母から相続することとなっていたわけです。

3.誰の相続を放棄すべきか(数次相続の場合)

上記のような相続関係の場合、相続放棄すべきは登記名義として記載されている兄弟姉妹ではなく、その権利を承継していた母についてとなります。このように複数の相続が生じている状態を数次相続といいますが、今回のケースでは第2次相続の母についての相続放棄をすれば、登記名義人となっている兄の権利義務を引き継ぐこともなくなるわけです。

ここで、登記名義人として市からの通知書に書かれているのは兄なのだから、母ではなく兄の相続を放棄したいと考えるかもしれません。しかしながら、兄の相続人であったのは母1人のみなのであり、弟である相談者は相続人ではありません。相続放棄ができるのは相続人に限られますから、このケースで弟が兄の相続放棄をすることは認められません。

心配だから兄の相続放棄もしておきたいと考えるのももっともなことですが、上記のとおり相続人でないのに相続放棄をすることはできません。そして、母の相続放棄すれば、母が有していた権利義務を承継することもなくなり、兄の所有不動産を相続してしまうこともなくなるので、そもそもの目的を達成したことになるわけです。

なお、このケースでは、母が最近まで存命であったとすれば相当な高齢になっていることになり、常識的に考えてずいぶん前に亡くなっていることは明らかでした。それでも、母が亡くなったことをを知らなかったのは事実なのであり、問題なく相続放棄は受理されました。