相続の限定承認は、民法で次のように定められています。

民法922条 相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。

つまり、限定承認とは「被相続人の財産も債務もすべて引き継ぐが、相続財産の限度でのみ債務を弁済する責任を負う」というものです。

相続を単純承認した場合、財産よりも債務の方が多いことが後で判明したときには、相続人は自分自身の財産によってでも債務の支払いをしなければなりません。

これに対し、限定承認をすれば、相続財産の限度でのみ債務の支払いをすれば済むわけです。このため、被相続人に財産があるものの、負債も相当ある場合に限定承認をするのが良いといわれます。

しかしながら、家庭裁判所での相続放棄、限定承認の新受件数は、相続放棄が169,300件なのに対し、限定承認は833件と大きな開きがあります(データは平成24年。裁判所ホームページ「司法統計」より)。

これは、限定承認では債務の清算などの面倒な手続きが必要なこと、相続人全員が共同してのみおこなえる手続きであることなどがおもな原因だと考えられます。

それでも、債務が存在するからといって単に相続放棄をしてしまうのに比べて、限定承認によれば財産を残せる可能性が出てきます。単純承認、相続放棄の二者択一だけでないもう一つの選択肢として、限定承認を活用できるケースもあるはずです。

限定承認と税金(みなし譲渡所得)

限定承認をしたときは、「相続開始時に、その時の時価で、被相続人から相続人に対して、相続財産の譲渡があったものとみなす」とされています。

そのため、相続財産中に不動産など譲渡所得の対象となるものがあるときには、被相続人に対して譲渡所得の課税がされることとなります。この場合、被相続人の譲渡所得の申告を、準確定申告によりおこなう必要があります。

よって、土地や株式などで大きな譲渡所得が生じているものがあるときには、被相続人に課せられる譲渡所得税額も大きくなります。ただし、限定承認の場合の譲渡所得税は、相続財産の範囲で支払えば良いので、相続人の財産を持ち出してまで支払う必要はありません。

単純承認の場合の譲渡所得税は?

なお、相続を単純承認したときには、相続開始時に譲渡所得に対する課税がされることはありません。単純承認では、被相続人から相続人に対して、プラスマイナスを含めたすべての財産と債務が移転するからです。

これに対し、限定承認では、被相続人の債務についての清算をおこなう必要があるため、相続開始時に譲渡があったものとみなして所得税の課税がなされるのです。

ただし、単純承認した場合でも、相続人が土地などを取得した後に売却したとすれば、その時点で、相続人に対して譲渡所得の課税がされることとなります。限定承認の場合だけ、みなし譲渡所得に課税されるから不利だというのではなく、単純承認であっても相続財産を売却した時点で譲渡所得税が課税されるわけです。

相続財産である土地など売却しようとする場合、大昔に購入した土地など取得費が低いものについては、譲渡所得税が非常に高額になることもあるので注意が必要です。