被相続人に、未払いのままになっている昔の借金があります。最後に支払いをしたのは20年以上も前のことで、この10年以上の間は債権者からの通知や督促も全くありません。このような場合に、相続放棄をする必要はあるのでしょうかとのご相談です。

事業の失敗などにより支払いが出来なくなってしまった債務について、長い年月に渡って未払いのままになっているようなケースがあります。その後は一度も借入をしていませんから、他には一切債務はありません。

また、事業を停止する前に所有不動産なども全て手放しているので、財産といえるようなものは何も持っていません。したがって、現状ではプラスもマイナスもとくに財産は無いと考えられるわけですが、気になるのは上記の未払い債務の存在です。

相続放棄をする場合

被相続人にとくにめぼしい財産は無いということであれば、念のために相続放棄をしておくとの選択肢も有力です。

法定の期間内に相続放棄をしておけば、後になって債権者から請求を受けた場合であっても、相続放棄している旨を伝えるだけで済みます。

今後もし請求を受けたとしたら、そのときに相続放棄をすれば良いと考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、相続が開始した時点で過去の債務の存在を知っているわけですから、後になって相続放棄するのは難しいと考えられます。

消滅時効援用の検討

今回のケースでは、仮に債務が残っているとしても、最後の支払いのときから20年以上が経過しています。

そこで、後になって請求を受けた場合には、相続人として消滅時効の援用をおこなうことも出来るでしょう。債権は最長でも10年で時効が完成するので、確実に時効になっていると考えられるわけです。

ただし、時効援用をするとなれば債権者それぞれに対して個別におこなう必要があります。債権譲渡を受けたとする債権回収会社等では、明らかに時効が完成していると考えられる債権についても訴訟等により請求をしてくることもあります。

結果的には時効援用をすることで解決するとしても、いつになっても不安が残る状況が続くかもしれません。

後順位相続人の存在

上記のように検討すると、後になって請求を受ける可能性は低いと考えられる場合であっても、念のために相続放棄しておいた方が安心だといえます。

しかし、ご自身が相続放棄しようとする場合、後順位相続人の存在について考慮すべきときもあります。

たとえば、被相続人が父である場合に、第1順位相続人である子の全員が相続放棄したとすれば、第2順位である直系尊属、第3順位である兄弟姉妹(またはその代襲者)に相続権が移っていきます。

よって、自分たちが父親の相続放棄をするならば、父の兄弟姉妹(おじ、おば)や、その子どもたちにも相続放棄してもらう必要があるかもしれません。

それらの方々にも状況を説明して、相続放棄をしてもらえれば問題ないでしょうが、親戚には迷惑をかけられないからと手続きを断念することもあります。

そのような状況であっても、相続放棄をする必要性が高い場合には、親戚を含めた全員の手続きを何としてでも行うべきときもあります。専門家に相談した上で、慎重に検討をするべきでしょう。

まずは専門家に相談すべきです

現在ではインターネット上にも情報が溢れているため、専門家へ相談する前に自分で情報を収集し、検討を行っている方も多いと思われます。しかし、断片的に得たネット上の情報により自己判断するのは危険ですし、そもそも、ネット上の情報そのものに誤りがある場合も多いです。

そこで、相続放棄を検討している場合には、最初から専門家に相談するのが良いでしょう。そして、相続放棄について相談するときは、弁護士か司法書士のいずれかにするべきです。その他の専門家といわれる人に相談しても、相続放棄の手続きを依頼することは出来ませんのでご注意ください。