遺産分割協議をするのは、遺産が存在することを認識した上でその処分をおこなおうとしているわけですから、明らかに法定単純承認の効力を生じさせる行為だといえます。

しかし、他の相続人からの求めに応じて遺産分割協議に協力したような場合に、「遺産分割協議をしたとの事実」のみをもってただちに相続放棄申述が却下されるとは限りません。

たとえば、被相続人が不動産を所有していたのは知っていたが、「自分が相続できるものとは全く考えておらず、実際に相続しようという気も全くなかった」というような場合に、他の相続人から求められるままに遺産分割協議書へ署名押印しているようなときです。

このような場合で、後になって被相続人の債務が発覚したようなときには、「その債務の存在を知ってから3ヶ月以内であれば相続放棄申述が受理される可能性は十分にある」と考えられます。

当ブログの以前の記事(遺産分割協議と相続の法定単純承認)でも、『当事務所で実際に取り扱った事件でも、遺産分割協議により遺産を取得しないとした相続人による相続放棄申述では、「遺産分割協議をしたとの事実」のみをもってただちに却下されたことはありません』と書いています。

このことは、上記記事を投稿した2015年8月当時から現在に至るまで変化がありませんし、当事務所でも遺産分割協議をした後の相続放棄申述を複数取り扱っており、その全てが受理されています。

なお、全ての相続放棄が受理されているといっても、明らかに受理されないと思われるケースについてはそもそも申立をおこなっていません(受理されるかどうか多少なりとも不安のあるケースについて、そのような見通しをお伝えした上でご依頼をいただき、申立てをおこなっているケースはあります)。

さらに、家庭裁判所には相続放棄申述が受理されたとしても、別の訴訟などにおいてその効力が否定される可能性もあるでしょう。つまり、ここで書いているのは「家庭裁判所に相続放棄の申述が受理される可能性があるか?」というお話しです。

上記を踏まえていえば、繰り返しになりますが、遺産分割協議をした後の相続放棄申述であっても個々のケースによっては受理される場合はいくらでもあるわけです。

しかしながら、ご相談者(ご依頼者)からお話を伺うと、複数の専門家に問合せしてみたが、遺産分割協議をしたとの事実だけをもって「その後の相続放棄は絶対に認められない」と言われたとのお話しをよく耳にします。

余談ですが、相続放棄申述書および事情説明書(上申書)を家庭裁判所へ郵送により提出した際、その書類が届いた直後に裁判所から連絡が入ったことがあります。

「他の相続人から求められて相続関連の書類に署名押印した」というように書かれているが、それは遺産分割協議をしたということだろうか。そうであれば、その時点で単純承認しているのだから、今からの相続放棄はできないはずだというのです。

そのまま受け入れるわけにはいかないので、遺産分割協議により遺産を取得しないとした相続人による相続放棄申述ならば受理されている例はいくらでもあると反論し、事情説明書についてもさらに補足説明をしました。

結局はその後にはとくに何の問題も無く受理されたので、事情説明書をよく読まずに連絡してきたのか、もしくは補足説明をしたことにより何とかご理解いただけたのかは不明なのですが。

とりとめの無い話になってしまいましたが、相続放棄が受理されるか否かについては、専門家といわれる人の話であってもただちに鵜呑みにするのでは無く、複数の専門家の意見を聞いてみるべきかもしれません。