相続放棄の手続きは、家庭裁判所で行う必要があります。しかし、相続人間の話し合いにおいて、自分は遺産を相続しないことに決まったのを、「相続放棄した」と表現される方が多くいらっしゃいます。
家庭裁判所で行う相続放棄でも、相続人間の話し合いにより遺産相続しないものと決めたのでも、その人が遺産を相続しないという点では変わりありません。しかし、相続人間の取り決めだけでは、債務(借金)の支払い義務から逃れることはできませんから要注意です。
財産を集中させるための遺産分割協議
たとえば、遺産相続についての相続人による話し合い(「遺産分割協議」といいます)の結果、相続人中の1人が遺産のすべてを相続することになったとします。遺産のなかには、現金、銀行預金、不動産(土地、家)もありますが、借金もかなりの金額が残っています。このプラス、マイナスどちらの財産も、すべて1人が引き継ぐことにしたわけです。
とくに事業を承継する長男が、プラスマイナス全てを含めた遺産を引き継ぐというのは良くある話です。そこで、プラスの遺産だけでなく、借金や保証債務などのマイナスの財産のすべてを記載した遺産分割協議書を作成し、相続人の全員が署名押印をしました。この遺産分割協議書によって、相続人は銀行預金の解約(払い戻し)手続きや、不動産の名義変更をおこなうことができます。
相続人は債務も引き継ぎます
ここで問題なのは、上記のような取り決めをした遺産分割協議書があっても、他の相続人が借金の支払い義務から逃れられるわけでは無いということです。相続人間の合意により、1人の相続人が全ての債務を引き継ぐとの取り決めをしても、それを相続債権者(被相続人に対する債権者)に主張することはできないのです。
相続放棄していない限りは、相続人はその法定相続分に応じて債務の支払い義務を引き継ぎます。したがって、相続債権者としては、相続人全員に対して支払いを求めることが可能なのです。
自分は遺産相続を放棄したから借金の支払い義務は無いというように勘違いされている方も多いようです。しかし、このような相続人間の合意(遺産分割協議)は、法律上の意味での相続放棄とは認められません。
相続放棄は家庭裁判所で手続きします
法律上の効力がある相続放棄をするには、家庭裁判所での手続きが必要です。家庭裁判所へ相続放棄の申述を行い、それが受理されることによってはじめて、法的な意味での相続放棄が認められたことになるわけです。
相続放棄をした人は、その相続については最初から相続人で無かったものとみなされます。相続人ではないのですから、プラスの財産を引き継げないのは当然として、相続債務を支払う義務を負うことはなくなります。
家庭裁判所への相続放棄申述は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内にしなければなりません。また、相続放棄の申述が家庭裁判所に却下されてしまうと、再度の申立を行うことはできません。
相続放棄の手続きを相談、依頼できる専門家は弁護士、司法書士のいずれかのみです。その他の、相続手続きの専門家といわれる人に相談しても、相続放棄の手続きを依頼することはできません。
ほとんどの場合、相続放棄の手続きでの家庭裁判所とのやりとりは書面によるのみですから、弁護士を代理人にせずとも、裁判所提出書類作成の専門家である司法書士に依頼すれば問題ありません。裁判所への書類提出は司法書士が代行しますし、裁判所からの照会書へも司法書士がご案内するとおりにすれば大丈夫です。
松戸の高島司法書士事務所では、とくに多数の相続放棄申述手続きを取扱い、豊富な経験と実績を有しています。間違いの無い手続きをするためにも、当事務所へご相談ください。