相続放棄後の財産管理義務が変わりました(2024年2月9日追記)
相続放棄をした人の相続財産の管理義務が、令和5年4月1日施行の民法改正により変更となっています。改正法では、相続放棄をした人が財産管理責任を負う場合について、「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」との要件が加えられました。詳しくは、相続放棄後の財産管理義務が変わりましたのページをご覧ください。

相続放棄をした人は初めから相続人にならなかったものとみなされるのですが、相続放棄をした相続人であっても、相続財産を管理する義務を負うことがあります。くわしくは前回の記事(相続放棄後の相続人の相続財産管理義務)をご覧ください。

今回は、相続放棄をした人による相続財産の管理について、その管理事務の内容などについて解説します。

管理事務の内容

管理事務の内容は、「権限の定めのない代理人の権限(民法103条)」の範囲内の事務です。具体的には、次の条文にあるとおり、保存、利用、改良行為に限られます。相続放棄をした人は初めから相続人にならなかったものとみなされるわけですから、処分行為をすることができないのは当然です。

そうはいっても、被相続人の所有していたものを一切処分できないとすれば、相続放棄した後も、被相続人の遺品をずっと保管し続けなければならないのでしょうか。この点につき明確な基準を示すのは困難ですが、どんな行為が相続財産の処分に当たるかは、相続財産の処分と法定単純承認のページを参考にしてください。

また、判断に困る場合は、専門家(弁護士、司法書士)に相談しながら進めていくべきでしょう。

民法103条  権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する

1 保存行為

2 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

相続財産の管理責任

相続の放棄をした人は、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続するものとされています(民法940条1項)。通常の相続財産管理人が、「善良な管理者の注意をもって」管理する義務を負っているのと比べると責任は軽減されています。

ただし、注意義務に反する行為をしたことにより相続財産に損害を生じさせたときには、その損害賠償責任を負うのは当然です。上記のとおり注意義務の程度は違うものの、管理責任があることには変わりがないわけです。

また、相続財産の隠匿(いんとく)や消費などの不正行為があった場合には、相続放棄が受理された後であっても、相続を単純承認したものとみなされることもあるので注意が必要です(民法921条3号)。

なお、相続放棄をした人の管理については、上記の民法940条1項による一般的な注意義務に加え、同条2項により民法の委任に関する規定が準用されています。具体的には、民法645条(報告義務)、同646条(受取物の引渡し、移転義務)、同650条1項および2項(費用等の償還請求等)などです。