実際にご依頼のあった事例を元にしていますが、個人情報等の保護に配慮し事実関係を変えている箇所もあります。同じような事例であるようにみえても、相続放棄が受理されるとは限りませんのでご注意ください。

相続の開始と、債務の存在を知るに至った事情

被相続人はご依頼者の父です。1人で暮らしているのは知っていましたが、ほとんど交流が無かったため、亡くなったこと知ったのは警察からの連絡によります。そのとき1度だけ警察に行って事情を聞いたのみで、遺品等を引き取ることもありませんでした。

その後、被相続人が住んでいた市から書面が届きました。被相続人の葬祭費の弁償を相続人に対して求めるとの内容でした。本人の慰留金銭等により弁償を得られないときは、相続人の負担とするという法律(行旅病人及び行旅死亡人取扱法)の規定によるものです。

上記の通知を見たときは、被相続人の死亡の時から3か月が経過していたのですが、今から相続放棄をすることが可能であろうかとのご相談です。

3か月経過後の相続放棄の申立て

死亡時には財産も負債も何も無いと思っていたので、相続放棄の手続きが必要などとは全く考えていませんでした。また、現時点で判明している債務は上記の葬祭費のみであり、そもそもの問題として葬儀費用が相続債務に当たるのかが疑問です。

葬儀費用は,相続開始後に生じた債務であるから,相続債務には当たらず,当該葬儀を自己の責任と計算において手配して挙行した葬儀主宰者がこれを負担すると解する(東京地判平成19年7月27日)。

3か月経過後の相続放棄が認められるのは、債務の存在を知らなかったことについて特別な事情があるときです。そのような場合に、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時、または通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するとされているわけです(最判昭和59年4月27日)。

葬儀費用が相続債務でないのなら、「相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時」には当たりませんから、熟慮期間が後ろに繰り延べられることも無いわけです。そこで、申立てをするに当たっては、市からの請求書を見たことにより、他にも債務のある可能性を考えるようになったことを強調しました。

今回のケースでは、現時点で債務がないと判断されることで、相続放棄申述が受理されない可能性もあるとの見通しをお伝えしたうえで申立てをしたものです。結果としては、特段の問題もなく無事に相続放棄申述が受理されました。

相続財産の処分をしているなどの事情が存在しないのであれば、判明した債務が少額(今回の場合は相続債務が存在しない?)な場合であっても、相続放棄が認められることが多いと思われます。ご自身のケースで相続放棄が出来るかご不明な場合には当事務所へご相談ください。

行旅病人及行旅死亡人取扱法 第11条

行旅死亡人の取扱費用については、死亡人の遺留金銭若しくは有価証券をもってこれに充て、なお不足する場合は相続人の負担とする。相続人より弁償を得られないときは、死亡人の扶養義務者の負担とする。

墓地・埋葬法に関する法律 第9条

埋葬又は火葬を行った費用に関しては、行旅病人及行旅死亡人取扱法の規定を準用する。