法定単純承認(ほうていたんじゅんしょうにん)
相続には、単純承認、限定承認、放棄の3通りの選択肢があります。このうち、単純承認がもっとも原則的な相続の形態であり、単純承認をした人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するものとされています。

限定承認、相続放棄をする際には、家庭裁判所での手続きが必要ですが、単純承認するには、とくに自発的に行動を起こす必要はありません。相続人は、次に掲げる場合には、単純承認をしたものとみなすとされているからです。これを、法定単純承認といいます。

民法第921条  次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

1  相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき。ただし、保存行為および及び短期賃貸借(民法602条)をすることは、この限りでない。

2  相続人が熟慮期間内に限定承認または相続の放棄をしなかったとき。

3  相続人が、限定承認または相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部もしくは一部を隠匿し、ひそかにこれを消費し、または悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

単純承認でなく、相続放棄(または、限定承認)するときには、上記に該当することとなる前に家庭裁判所へ相続放棄(限定承認)の申述をしなければなりません。いったん法定単純承認の事由に該当することがあれば、その時点で単純承認したものとみなされるわけですから、その後になって相続放棄や限定承認をすることは認められないのです。

第1号 相続財産の処分

相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされます。

相続財産ではあっても、交換価値がない物、多額遺産中のわずかな物を、形見分けとしてもらうのは「相続財産の処分」に該当しません。しかし、一般経済価値を有する物を受領することは、財産の処分であるとして単純承認をしたものとみなされます。

たとえば、被相続人名義の銀行預金を引き出して、相続人が自分自身のために使ってしまえば、相続財産の処分に該当するのは明らかです。しかし、引き出したお金を被相続人の債務の弁済に充てた場合には、処分ではなく、「保存行為」に該当するとみなされることが多いです。

保存行為であれば、相続財産の処分には該当しないことになり、単純承認したものとみなされることもありません。

どんな行為が、相続財産の処分に当たるかについては、相続の単純承認事由(相続財産の処分)をご覧ください。

第2号 熟慮期間の経過

相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、単純承認、限定承認、または相続放棄をしなければならなりません。この3ヶ月の期間のことを「熟慮期間(じゅくりょきかん)」といいます。

熟慮期間内に、家庭裁判所へ限定承認または相続放棄の申述をしなかったときは、単純承認したものとみなされます。

3ヶ月間の熟慮期間がいつスタートするのかについては、相続放棄が出来る期間のページをご覧ください。

第3号 限定承認・相続放棄後の、相続財産の隠匿、消費、財産目録不記載

相続人が限定承認または相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部もしくは一部を隠したり、密かにこれを消費し、または悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったときには、単純承認したものとみなされます。

つまり、いったんは適法に相続放棄や限定承認の申述が受理された後でも、上記のような被相続人の債権者や受遺者に対しての背信行為をおこなったときには、単純承認したものとみなされるわけです。

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