下図のとおりの相続関係では、被相続人であるAが死亡した時点で相続人となったのは、妻Bと、子C、D、Eの4人でした。その後、3人の子たちは父Aの相続を放棄しましたが、Bについては相続の放棄も承認もしないまま死亡してしまいました。

相続人が相続放棄する前に死亡したとき

このように、Aの相続人Bが相続の承認も放棄もしないまま熟慮期間内に死亡したことで、更に相続人CがBの相続人となったような場合を「再転相続」といいます。

相続人Cは、被相続人Aの相続について承認または放棄する地位をBから承継するので、被相続人Aの相続と被相続人Bの相続について、それぞれ承認または放棄することができます(再転相続の相続放棄についての解説はこちら)。

本例の場合、相続人Cは、被相続人Aの子ですから、Aの死亡した時点で相続人になっています。そして、さらにBの死亡により再転相続が生じ、被相続人Aの相続について承認または放棄する地位をBから承継しています。

そのため、相続人Cが被相続人Aの相続を放棄しようとする場合、次のように2度の相続放棄申述をする必要があります。

  1. 被相続人Aについての相続放棄申述(申述期間は令和2年3月1日から3ヶ月以内)
  2. 再転相続が生じたことによる、被相続人Aについての相続放棄申述(申述期間は令和2年5月1日から3ヶ月以内)

なお、今回の事例では、相続人C、D、Eは、Bが死亡するよりも前に、Aについての相続放棄申述をしています。その後にBが死亡しているため、再転相続が生じたことにより、被相続人Aについての再度の相続放棄申述をしています。

上記とは違い、Bが死亡する前には、Aの相続についての承認も放棄もしておらず、Bの死亡後にAについての相続放棄申述をする場合にはどのような手続きが必要となるでしょうか。

この場合には、Bからの再転相続によるのもあわせて放棄する旨を明らかにすれば、1度で相続放棄申述が可能だと考えますが、実際に手続きをおこなう場合には事前に裁判所に確認すべきでしょう。

ところで、今回のようなケースで、Bの死亡により再転相続が生じた後に、相続人C、D、Eの3人が被相続人Bについての相続放棄をすることも可能です。

これによっても、相続人C、D、Eは、被相続人Aの相続を放棄することになります。しかし、この場合には、Bが承継していたAについての相続権が、Bの兄弟姉妹(またはその代襲者)に承継されてしまう場合があることも含めて検討すべきです。

民法第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

第916条 相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第1項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。