ダイヤモンド社のウェブサイトDIAMOND onlineに「知らないと損する相続・贈与の基本」の特集があります。この2014年12月22日付け記事のタイトルは「相続放棄はいつまでに行えばよいか?」です。

相続放棄はいつまでに行えばよいか?
遺産が全て「プラスの財産」とは限らない。相続できたと喜んでいたら、他人の債務の連帯保証まで引き継いでいたというケースもある。相続か放棄か、判断の鍵は遺産の全容把握だ。

記事ではまず、相続人に認められている選択肢として、単純承認、相続放棄、限定承認の3つを解説しています。

このうち、限定承認とは「被相続人の財産も債務もすべて引き継ぐが、相続財産の限度でのみ債務を弁済する責任を負う」というものです。それだけを聞けば、相続財産(債務)の調査が難しい場合には、積極的に限定承認を選択するのがよさそうにも思えます。

しかし、家庭裁判所での相続放棄、限定承認の新受件数は、相続放棄が169,300件なのに対し、限定承認は833件と極端に件数に開きがあります(平成24年。裁判所ホームページ「司法統計」より)。これは、限定承認では債務の清算などの面倒な手続きが必要なこと、相続人全員が共同してのみおこなえる手続きであることなどがおもな原因だと考えられます。

限定承認と「みなし譲渡所得」

記事中には「被相続人の財産は相続人に時価で譲渡されたものと見なされるので、税金の発生により財産が減ってしまう場合もある」との記述があります。これは、みなし譲渡所得といわれるもので、限定承認をしたときは「相続開始時に、その時の時価で、被相続人から相続人に対して、相続財産の譲渡があったものとみなす」とされています。

そのため、相続財産中に不動産など譲渡所得の対象となるものがあるときには、被相続人に対して譲渡所得の課税がされることとなります。この場合、被相続人の譲渡所得の申告を、準確定申告によりおこなう必要があります。よって、土地や株式などで大きな譲渡所得が生じているものがあるときには、被相続人に課せられる譲渡所得税額も大きくなります。

このことを「税金の発生により財産が減ってしまう場合もある」といっているのでしょう。ただし、限定承認の場合の譲渡所得税は相続財産の範囲で支払えばよいので、相続人の財産を持ち出してまで支払う必要はありません。限定承認を選択しようとするときは、手続きに精通している専門家と相談した上で進めていくべきでしょう。

相続財産(債務)の調査について

相続の承認・放棄を選択するためには、相続財産(プラス・マイナス)の全体像を把握する必要がありますが、3ヶ月という短期間では調査が難しい場合もあるのは記事にもあるところです。

しかし、記事にある「被相続人に対して債権を持つ金融機関などは、相続の開始を知っても3カ月は問い合わせをしてこない。相続放棄などをされては困るからだ」との記述は一般的でないように感じます。

まず、金融機関が相続の開始を知らなかったとします。この場合、被相続人名義の口座から引き落としで返済されていたとすれば、たしかに問い合わせはないでしょうが、相続人が財産調査をおこなう際に、容易に債務の存在を知ることができるはずです。

もしくは、相続が開始(被相続人が死亡)したことで返済が滞ったとすれば、3ヶ月も待たずに督促がおこなわれるはずですから、やはり債務の存在は発覚するでしょう。

つまり、3ヶ月の経過を待つことができるのは、金融機関は被相続人の死亡した事実を知っているが、相続人はその債権者(金融機関)の存在を知らないようなケースに限られるでしょう。

被相続人が保証債務を負っている場合

3ヶ月の経過が過ぎてしまった後になって、ご相談やご依頼を受けるのが多いケースは、被相続人が保証債務を負っている場合です。

保証債務については、主債務者(借り主)が返済をしているうちは、保証人に請求してくることは通常ありません。それが、返済が滞ったことにより保証人への督促をおこなって来たことで債務の存在が発覚するわけです。

このときには、相続開始から何年も経過しているというのは決して珍しいことではありません。このような場合であっても、保証債務の存在を知ることが困難であったなどの事情があるときには、相続放棄が可能なこともあります。

相続開始から3ヶ月が経過後に、保証債務やその他の債務の存在が発覚したときは、今からの相続放棄は不可能だとすぐに諦めるのではなく、早急に専門家(弁護士、司法書士)に相談することをお勧めします。当事務所でもご相談を承っておりますから、まずはお問い合わせください。