遺産分割協議をした後であっても、相続放棄申述が受理された事例です。個人情報保護のため細部は変えていますが、実例として参考になるかと思います。
相続放棄をしようと考えたきっかけ
父とは、自分が子供の頃に父母が離婚してから、20年以上もの間一切連絡を取っていなかった。
そのため、父が亡くなったことも知らずにいたが、突然、司法書士から父名義の土地、建物の名義変更についての書類が送られてきた。司法書士に依頼したのは、全く面識のなかった叔父(父の弟であるとのこと)。
父名義の財産を引き継ぐつもりなど全く無かったので、求められるままに必要書類の提出に応じた。
書類に書かれていたのは不動産についてのみで、その他の財産については何も記載がなかった(控えを取っていないので、書類のタイトル等は不明だが「遺産分割協議書」だったと思われる)。
よって、不動産以外の財産の有無は不明だったが、とくに債務があるとも知らされなかったので、相続放棄の手続が必要だとは全く考えていなかった。自分としては、父の遺産の処理はそれで完了したとの認識だった。
ところが、その後になって債権者から相続人に宛てた督促が入った。すでに上記遺産分割のときから3ヶ月を大幅に過ぎているが、可能であれば相続放棄したい。
遺産分割が、相続財産の処分にあたるか
遺産分割協議をおこなうことは、相続財産の処分にあたると判断されるのが通常でしょう。したがって、相続放棄をするならば、本来は遺産分割協議への協力を求められた時点で手続きをするべきでした。
この時点で相続開始から3ヶ月が経過していたとしても、相続の開始時(父の死亡)自体を知らなかったのであれば、知った時から3ヶ月間以内であれば相続放棄の手続きが可能です。
また、相続開始を知っていたとしても、父母の離婚後は全く交流が無かった父の財産調査をおこなうことなど現実的に不可能ですから、遺産分割協議への協力を求められたときから3ヶ月以内であれば、全く問題なく相続放棄が認められたはずです。
しかし、今回は遺産分割協議書への署名押印に応じてしまい、さらに、その時からも長期間が経過してしまっています。
遺産分割協議をした後になって、予想もしていなかったような多額の相続債務が発覚した場合に、法定単純承認の効果が発生していなかったと見る余地があると判断した裁判例はあります。けれども、今回は「予想もしていなかったような多額の相続債務」という程の債務額でもありませんでした。相続放棄が不可能ならば、支払ってしまっても生活に支障は無い程度の金額です。
それでも、相続開始時に債務の存在を知っていたとすれば、すぐに相続放棄していたはずであることなどを主張し、相続放棄の申述が受理されました。今回の事例では、遺産分割協議のときにも何も遺産を受け取っていなかったのも、相続放棄が認められた大きな理由の一つかもしれません。
遺産分割協議後の相続放棄申述については、遺産分割協議は単純承認事由に該当するかのページも参考にしてください。
(2015/11/17 追記)
当事務所で相続放棄申述書および上申書(事情説明書)を作成し、家庭裁判所へ申立てした事例で、遺産分割協議で不動産を取得するものとし、その遺産分割協議による相続登記を済ませた後になって、多額の連帯保証債務の存在が発覚したため、それから相続放棄申述をして受理されたものがあります。くわしくは、遺産分割協議で不動産を取得した後の相続放棄が受理された実例をご覧ください。