被相続人が死亡してから長い年月が経過した後に相続放棄の申述をした事例です。

3ヶ月経過後の相続放棄が認められる典型的な例としては、死亡時には特に財産も負債も無いと考えていたのが、後になって多額の債務が発覚したような場合です(どのような場合に3ヶ月経過後の相続放棄が認められるかについては、特別な事情がある場合の熟慮期間の始期のページをご覧ください)。

熟慮期間の始期について判断した昭和59年の最高裁判決では、特別な事情があるときには「熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時」から起算するとしています。

この最高裁判決では「相続財産」の存在を認識したときとしており、債務や負債と限定して書かれているわけではありません。けれども、多額の連帯保証債務が発覚したケースについて判断されているものであり、相続債務の存在を認識したときであることが念頭にあったと考えるべきでしょう。

しかし、今回のケースでは相続債務の存在は明らかになっておらず、被相続人名義の不動産の存在が発覚したことをきっかけにして、3ヶ月経過後の相続放棄申述をしています。実際とは多少変えてありますが、事実関係は次のとおりです。

被相続人名義の不動産の存在を認識した経緯

被相続人は父、申述人は子(長女)。被相続人は夫婦で、長男及びその妻子と同居していた。居住していた自宅不動産は被相続人の所有だったが、亡くなる数年前に家屋の建て替えをしている。申述人はその当時に、新しく建てる家は長男の名義にすると、母から聞かされていた。

平成○年に被相続人が亡くなった。申述人は、そのずっと前に結婚して家を出ていることもあり、被相続人の財産の状況は良く分からなかった。しかし、家屋は兄の名義になっているはずだし、土地も兄のものなのだろうと漠然と思っていた。

実際には、相続開始後に財産状況などについての説明を受けたことは無く、また、遺産分割協議への協力を求められるようなことも無かったので、父の遺産については特に考えたことが無いというのが事実。

最近になって、市役所から固定資産税・都市計画税についての納税通知書が届いた。市の担当者に事情を聞いてみると、不動産の名義は被相続人の名義のままになっており、相続人代表者である兄が固定資産税を滞納しているために、父の相続人である申述人のところに通知を送ったとのこと。

相続の開始を知ったとき

上記のような事実があったケースについて、「相続の開始を知った日」を市からの通知を受け取った日として相続放棄申述受理の申立てをしました。

上記の事実によれば、新たに判明した相続財産は不動産のみです。滞納している固定資産税は相続開始後に発生しているので相続財産ではないと考えられます。よって、現時点で判明している相続財産は、プラスの財産である不動産のみです。

このような場合に相続放棄が認められるかについては、上記判例の「相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時」にいう、「相続財産」がプラスマイナスを問わないと考えれば問題なく受理されるとも考えられますが、そもそもの前提となる事実が異なるのですから、この判例を根拠にして相続放棄できると断定することはできないでしょう。

それでも、結果としては上記のような事例であっても相続放棄が認められる可能性は高いと思われますが、次のような事情があることなども申立時に提出した文書に書いています。

  • 上記不動産には兄が住んでいる限り、申述人にとっては全く利用価値が無いものである。また、兄とはまともに話が出来ない状況であるし、無理に遺産分割を求めてまで法定相続分を取得したいというような気持ちも持っていない。
  • 結局、相続開始の前後を通じて、申述人は父から相続する財産は何も無いと考えていたのであり、今になって不動産の存在が判明したからといって相続する意思はない。

この事例では、別のところで相談したが相続放棄は難しいといわれたとのことでした。当事務所にご依頼いただいたとしても、同じようなケースで絶対に相続放棄が認められるとはお約束できません。

しかしながら、さまざまなケースにおける3ヶ月経過後の相続放棄の申立てをおこなってきた経験と実績の蓄積がありますから、他では断られた場合であってもすぐに諦めずに当事務所へご相談ください。