法の不知により自己が相続人となったことを知らなかったとき

(最終更新日:2024年7月22日)

誰が相続人になるかは法律(民法)により定められています(くわしい解説は法定相続人のページをご覧ください)。それでは、法律を知らなかったために「自己が相続人となったことを知らなかった」としたら、相続放棄の熟慮期間(民法915条)はいつから進行を始めるのでしょうか。

ここで問題にしているのは、「被相続人の死亡の事実を知らなかった」とか、「先順位の相続人全員が相続放棄した事実を知らなかった」というのとは異なります。このように自己が相続人となるための事実そのものを知らなかった場合には、その事実を知ったときが熟慮期間の始期となります。

ところが、被相続人の兄弟姉妹が相続人となる場合に、その兄弟姉妹が先に亡くなっているときには、その兄弟姉妹に子がいれば代襲して相続人となりますが(民法889条2項)、被相続人の甥や姪が相続人となる場合があることを知らない人もいるでしょう(代襲相続の解説はこちら)。このようなときに、法律の規定を知ってから3ヶ月以内であれば相続放棄が可能であるかという問題です。

・法の不知は理由して認められるのか

なお、この質問に関しての回答は、個々の事例に応じて判断されるものだと思われます。以下は、あくまでも一つの意見として捉えてください(当事務所では、以下の記述の内容について一切の責任を負いかねます)。

まず、相続人が「法律の不知または事実の誤認のため」に、自己が相続人となったことを知らなかったときには、熟慮期間が進行を始めないというような記述もネット上には見かけます。しかしながら、「法の不知」が理由ならば無条件に熟慮期間が開始しないと断定する根拠は存在しないと思われます。

ただし、法の不知は絶対に理由にならないということではなく、「法律を誤解した」ことによって先順位の相続人が存在すると信じていた場合に、熟慮期間の起算点が後に繰り延べられた裁判例が存在します。

『被相続人の死亡により相続人となった被相続人の弟妹が、法律を誤解し、被相続人の配偶者の連れ子が自分らより先順位の相続人であると信じていたため、被相続人の死亡を知ったときから3箇月経過後に相続放棄の申述をした』という事例です。

被相続人がその連れ子を養子にしていると考えていたわけではなかったため、法律事実の認識に錯誤があったわけではなかったが、法律の誤解により、自己より先順位の相続人がいるものと誤信していたのであり、この誤信に気付いた時点から熟慮期間が起算されるべきだと判断し、家庭裁判所において相続放棄の申述を却下した原審判を取り消した上、差し戻しています(仙台高等裁判所昭和59年11月9日決定)。

そのような判断をした理由について、「前認定の事実関係に徴するとき、抗告人らがこれに関する親続法・相続法を誤解したことを目して許すべからざるものとするまでの必要はないものと考える」としています。

「被相続人がその連れ子を養子にしていると考えていたわけではない」のに「自分らより先順位の相続人であると信じていた」場合であるのに、「この誤信に気付いた時点から熟慮期間が起算されるべき」だと判断されたわけです。

これが許されるならば、代襲相続などについての民法の規定を知らなかったため、自分が相続人であるとは思わなかったというようなケースも同じように考えられるようにも思います。そうであれば、少なくとも誰が相続人であるかという判断に関しては、法律の不知が理由になる余地もあるのではないでしょうか。

なお、当事務所ではこのようなケースでの相続放棄の手続きをおこなった経験はありませんので、実際に申立てをおこなった場合に受理されるかどうかの判断はいたしかねます。

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司法書士 高島 一寛

千葉司法書士会 登録番号第845号

簡裁訴訟代理関係業務 認定番号第104095号

(略歴)

1989年 千葉県立小金高等学校卒業

1993年 立教大学社会学部卒業

2000年 司法書士試験合格

2002年 松戸で司法書士事務所開設

『相続放棄の相談室』ホームページを運営する千葉県松戸市の高島司法書士事務所(松戸駅東口徒歩1分)は2002年2月の事務所開業から20年以上の長期にわたり、ホームページやブログからお問い合わせくださった個人のお客様からのご相談を多数うけたまわってまいりました。

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