(最終更新日:2018/06/26)
相続放棄が出来る期間については、法律(民法)により「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、単純承認、限定承認、または相続放棄をしなければならない」と定められています(民法915条1項本文)。
上記の3ヶ月の期間のことを熟慮期間(じゅくりょきかん)といいます。熟慮期間内であれば、相続を承認するか放棄をするかは自由に選択できるわけですから、相続人が自らの意思で相続放棄の申述をすれば、正しく手続きをする限りでは必ず受理されることとなります(単純承認したものとみなされる行為があった場合を除く)。
しかし、手続きをしないうちに熟慮期間を経過すれば、相続を単純承認したものとみなされてしまいますから、その後に相続放棄の申述をしても却下されてしまいます。そのため熟慮期間がいつ開始したか、つまり、「自己のために相続の開始があったことを知った時がいつであるか」の解釈が非常に重要となることがあります。
民法第915条(相続の承認又は放棄をすべき期間)
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、相続について単純もしくは限定の承認または放棄をしなければならない。ただし、この期間は利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 (省略)
民法第921条(法定単純承認)
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 (省略)
二 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認または相続の放棄をしなかったとき。
三 (省略)
相続放棄が出来る期間(熟慮期間の始期) 目次
1.自己のために相続の開始があったこと知った時とは
1-1.被相続人の配偶者または子である場合
1-2.被相続人の直系尊属や兄弟姉妹である場合
2.特別な事情がある場合の熟慮期間の始期
1.自己のために相続の開始があったこと知った時とは
「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続開始の原因である事実を知り、それによって、自分が法律上の相続人となった事実を知った時です。この時期については、相続人が配偶者または子である場合と、直系尊属や兄弟姉妹である場合とを分けて考える必要があります。
1-1.被相続人の配偶者または子である場合
「相続開始の原因である事実」とは、被相続人が死亡した事実を指します。そして、配偶者や子は、被相続人の死亡と同時に相続人となりますから、「自分が法律上の相続人となった事実」を知るのも、被相続人が死亡した事実を知った時と同時であることになります。
よって、相続人が配偶者または子である場合には、被相続人の死亡の事実を知った時から、熟慮期間である3ヶ月間が開します。
上記の解釈により、被相続人の死亡の事実を知らないでいる場合、どれだけ時間が経っても熟慮期間は開始しないことになります。たとえば、実の親子であっても、まったくの音信不通となったままになっていることもあります。このような場合、債権者からの通知などにより、被相続人の死亡の事実を知ったとすれば、その時から3ヶ月間の熟慮期間がスタートするわけです。
ただし、客観的に見れば、被相続人の死亡のときから3ヶ月間が経過しているのは事実です。そこで、相続放棄の申述をするに際しては、自己のために相続の開始があったことを知った時がいつであるかのを、しっかりと裁判所に伝える必要があります。そこで、裁判所へ相続放棄申述書を提出する際には、具体的な事情説明書や、説明資料などもあわせて出すのがよいでしょう。
1-2.被相続人の直系尊属や兄弟姉妹である場合
「相続開始の原因である事実」が、被相続人が死亡した事実を指すのは、相続人が配偶者または子である場合と同様です。ところが、直系尊属や兄弟姉妹である場合には、「自分が法律上の相続人となった事実」を知るのが、被相続人が死亡した時と一致するとは限りません。
まず、被相続人に子がいなければ、被相続人の死亡と同時に直系尊属が相続人となりますから、「自分が法律上の相続人となった事実」を知るのは、被相続人の死亡の事実を知った時と一致します。よって、相続人が配偶者または子である場合と同じく、被相続人の死亡の事実を知った時から、熟慮期間である3ヶ月間が開始することになります。
ところが、被相続人に子がいる場合、被相続人が死亡してもすぐに第2順位相続人である直系尊属が相続人となることはありません。子が相続放棄をした場合、その時になってはじめて直系尊属が相続人となるわけです。つまり、先順位相続人が相続放棄したことを知った時が、「自分が法律上の相続人となった事実」を知った時となり、その時から熟慮期間がスタートするのです。
ある人が相続放棄をした場合に、それが後順位の相続人に通知されるような仕組みはありません。そのため、とくに兄弟姉妹(または、その代襲者)が相続人となるような場合には、先順位者が相続放棄申述をした事実を知らずにいることもあるでしょう。この場合、先順位者が相続放棄したことを知った時から3ヶ月以内であれば、被相続人の死亡からどれだけ期間が経過していても相続放棄が可能です。
ただし、先順位相続人が相続放棄してから3ヶ月間が経過している場合には、自己のために相続の開始があったことを知った時(先順位者が相続放棄したのを知った時)がいつであるかのを、しっかりと裁判所に伝える必要があります。そこで、裁判所へ相続放棄申述書を提出する際には、具体的な事情説明書や、説明資料などもあわせて出すのがよいでしょう。
2.特別な事情がある場合の熟慮期間の始期
相続放棄ができるのは、相続開始の原因である事実を知り、それによって自分が法律上の相続人となった事実を知った時から3ヶ月であるのが原則です。ところが、特別な事情があるときの熟慮期間の始期について、次の最高裁判決があります。
相続人において相続開始の原因となる事実およびこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から3ヶ月以内に限定承認または相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、相続の熟慮期間は、相続人が相続財産の全部もしくは一部の存在を認識した時、または通常これを認識できるであろう時から起算するのが相当である(最高裁昭和59年4月27日判決)。
上記の最高裁判決は、熟慮期間の起算点の考え方についての基準となるものですが、この判例によれば相続財産が全く存在しないと信じたことが熟慮期間の起算点が後に繰り延べられるための要件の一つとなっています。それでは、相続人が相続財産の存在を一部でも認識していたときには、熟慮期間の開始時期が後に延びることは絶対に無いのかといえば、現実にはそのような取り扱いはされていません。
家庭裁判所の実務においては、相続放棄申述を受理するための実質的要件を欠いていることが明白である場合に限り、申述を却下するものとして処理されています。つまり、相続人が相続財産の存在を一部でも認識していたときであっても、後になって予想外に多額の債務が判明したような場合では、相続放棄の申述が受理される傾向にあるのです。
ただし、やみくもに申立をすれば受理されるものではありません。相続放棄の申述が却下されないためには、「申述を受理するための実質的要件を欠いていない」ことを適切に事情説明する必要があるわけです。
(もっとくわしく)特別な事情がある場合の熟慮期間の始期
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